シネマート心斎橋でイ・チャンドン監督作品『オアシス』観てきました。
「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督が、社会に適応できない青年と脳性麻痺の女性の愛の行方を描き、第59回ベネチア国際映画祭で監督賞などを受賞した恋愛ドラマ。
ひき逃げ死亡事故で服役し刑務所から出たばかりの青年ジョンドゥは、家族の元へ戻るが迷惑がられてしまう。ある日、被害者家族のアパートを訪れた彼は、寂しげな部屋にひとり取り残された被害者の娘コンジュと出会う。重度の脳性麻痺を持つ彼女は、部屋の中で空想の世界に生きていた。互いに惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくジョンドゥとコンジュだったが……。
「ペパーミント・キャンディー」でも共演したソル・ギョングとムン・ソリがジョンドゥとコンジュをそれぞれ演じた。2019年3月、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて、HDデジタルリマスター版が日本初公開。
ちょっと…信じがたい大傑作ですね…
観ながら「映画ってここまでのことを描くことができるのか…」と驚愕しっぱなしでした。
情け容赦ないリアリズムに打ちひしがれる
全編通して主人公ジョンドゥの生きづらさや貧しさが擦り切れるようなリアリズムで描かれていて息がつまるようでした。
冒頭のジョンドゥが一般的な「普通」からは離れた人物であることを執拗に描き見ている方に居心地の悪さを突きつけてくる一連のシーンは秀逸。特に…序盤の商店で豆腐を手づかみで食べるシーン!なんなのあれ!度肝抜かれたよ!
「聖人」ではない、生々しい欲望を持ったふたり
この物語の素敵なところは、別にジョンドゥやヒロイン・コンジュを社会から阻害されつつも清く正しく生きる成人などとしては描いていないところ。
特にジョンドゥの行動の倫理的な正しくなさは見ていて不愉快なほどですが、だからこそふたりのそれでも生きていくしかないという切実な思いが刺さるように伝わってきました。
空想が現実に生きる価値を与える
脳性麻痺によりほとんど動けないコンジュにとっての数少ない自ら可能な行動である「空想」。空想によって物語が大きな飛躍を見せる山場の描写は驚愕の一言。
同時にこのシーンはコンジュが辛い現実を空想によって生き抜いてきたこれまでの人生が伝わってくるようであまりに切ないシーンでした。
これ以上ラブストーリーに踏み込めるとは思えない
一般的なラブストーリーはもう少し見ている側に甘いものになろうかと思いますが、「オアシス」が突きつけてくる厳しさには他の追随を許さないものがありました。ここまで他人に理解されることを必要としないラブストーリーってこれ以上に描きようがあるのでしょうか?ちょっと私には想像できないですね…
間違いなく障害でも上位の映画です。この映画自体が誰かにとっての「オアシス」足り得ます。いやぁ観てよかった…