2019年4月12日からシネマート心斎橋で上映中の「ザ・バニシング 消失」と4月13日と4月19日の2日だけ特別上映される「ヘンリー」を観てきました。
相変わらず映画愛ありまくりの掲示物。
犯人がつまらないやつなのがとにかく嫌『ザ・バニシング 消失』
ある日突然消えた恋人を捜す執念と亡霊にとり憑かれたかのような男が、次第に精神的に追い詰められていく姿を描いたサイコサスペンス。
1988年に製作され、93年には監督のジョルジュ・シュルイツァー自身のメガホンにより、「失踪 妄想は究極の凶器」(ジェフ・ブリッジス、キーファー・サザーランド、サンドラ・ブロック出演)としてハリウッドリメイクもされている。
日本では長らく劇場未公開だったが、2019年4月に劇場公開が実現。オランダからフランスへ車で小旅行に出がけたレックスとサスキアだったが、立ち寄ったドライブインで、サスキアがこつ然と姿を消してしまう。
レックスは必死に彼女を捜すが手がかりは得られず、3年の月日が流れる。それでもなお捜索を続けていたレックスのもとへ、犯人らしき人物からの手紙が何通も届き始める。
上映時間の95%の間、「なんだかよく分からないが、とにかく恐ろしいことが起こっていることだけは間違いない」という状況だけをひたすら見せられ続ける地獄のような映画。
伝説的に取りざたされるラストは、想像を膨らませすぎた私には少し物足りなく感じましたが(ああいう状況から始まる映画が他にあったので、今からが始まりじゃんと思ってしまった)、観終わった後にふとした瞬間に思い返すと身震いするほど恐ろしい気持ちになります。
この映画の何が嫌って、犯人がとにかく間抜けでつまらない人間だということ。破滅や絶望は劇的に仰々しくやって来るわけではなくて、退屈でくだらない様相で淡々と我々を呑み込んでいくということを突き付けられたようで心底不快な気持ちになります。
殺人鬼のアメリカン・ニューシネマ『ヘンリー』
1970~80年代に全米で300人以上を殺害したといわれる伝説の殺人鬼で、「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターのモデルにもなったといわれるヘンリー・リー・ルーカスの日常を、冷徹な筆致で描いた犯罪スリラー。
14歳の時、虐待を繰り返す母親を殺害したヘンリーは、相棒のオーティスとその妹ベッキーとの奇妙な共同生活を始める。しかし、ヘンリーは次第に本能的ともいえる殺人衝動が抑えられなくなっていく。
一方ヘンリーに惹かれるベッキーの様子にオーティスは嫉妬し、そのことから3人の共同生活は思わぬ惨劇へと発展していく。
86年に製作されたものの、アメリカでも90年に公開されるまでお蔵入りなっていたいわくつきの一作。日本では92年に初公開。2019年4月、オランダの伝説的スリラー「ザ・バニシング 消失」の劇場公開にあわせて特別上映。
語弊を恐れずいうなら、めちゃくちゃ面白かったですし、とても感情移入して観てしまいました。
ヘンリーがひたすら淡々と、淡々と人を殺していくのですが、そのなんでもなさがさも大したこともないことをしているだけのように見えてきて、逆に普通の若者に見えちゃったんです。
普通に貧しくて、普通に日常に倦んでて、普通によりよく生きたいと思っている。そんな中で殺人はちょっとだけ生活をより良いものにする「ライフハック」といった温度感で殺人を重ねていて、作中に漂っている空気だけを見ると、60年代から70年代にかけて制作された反体制的な若者を主に描いた「アメリカン・ニューシネマ」っぽく感じられました。アメリカン・ニューシネマ的な無軌道な若者の破滅的な日常(+大量殺人)的な。
善悪の基準はぶっ壊れているけれど、価値判断の基準は我々凡庸な庶民に近いしみったれた感覚で生きているヘンリーはそれほど我々から遠い存在だとは思えませんでした。
ラストで成長できそうで出来ず、自らの業に呑まれてしまうヘンリーにはかつて観たアメリカン・ニューシネマの一作「ファイブ・イージー・ピーセス」を思わず連想しました。
たくさん観てるわけじゃないけどアメリカン・ニューシネマの映画作品自体好きだし、正直こういう手触りの映画好きです。あまり大きな声では人に好きと言えないけど。
こういう映画にお客さんがたっぷり入ってて良かった
心底嫌な気持ちになれる漆黒の映画二本ですが、観に行ったときは両方ともになかなかの盛況でした。
映画でしか体験できない、否、できることなら映画だけの体験にしておきたいヘドロのような現実を垣間見ることができるというのも映画の魅力であり役割であると思います。こういう映画にお客さんに入るのは素晴らしいことだと思います。
『ヘンリー』は回数がかなり限られた限定上映で、関西だともう観るのは難しいですが、東京の方だともう少し観られそうですね。『ザ・バニシング 消失』はもう少し観る機会がありそうです。
お金を払ってまで地獄を見たい方はぜひ観に行ってください。(この観客の「見たい」という感情自体が「ザ・バニシング」のラストへの伏線なんだよな…やっぱ怖い映画だよ)