『劇場版 響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』観てきました。
全日本吹奏楽コンクールに出場を果たした北宇治高校吹奏楽部で、2年生になった黄前久美子は、4月から新しく入った1年生の指導にあたることになる。全国大会出場校とあって、多くの1年生が入部する中、久美子たちの低音パートには、久石奏、鈴木美玲、鈴木さつき、月永求という4人の1年生がやってくる。サンライズフェスティバルやオーディション、そしてコンクールと、全国大会金賞を目標に掲げて進む吹奏楽部だったが、問題が次々と勃発し……。
監督の石原立也、脚本の花田十輝らテレビシリーズを手がけたスタッフ&キャストが再結集した。
TVアニメシリーズ「響け!ユーフォニアム」に関してはほぼ知識ゼロ。過去の劇場版も未視聴で、スピンオフにあたる「リズと青い鳥」だけ観た状態です。
本作を観る前の私のツイートはこの程度の温度感、
私の響け!ユーフォニアムの認識
・髪が茶色いやつ…主人公
・髪が黒いやつ…ヤなヤツ
・エメラルドってやつがいる
・鎧塚みぞれは特に取り柄のない生徒だったが、傘木希美に誘われて吹奏楽部に入部する。オーボエ奏者として頭角をあらわし始めるみぞれだったが、知らないうちに希美が退部していて…— 島の映画やさん (@awajicinema) 2019年4月24日
偶然ポスターに惹かれて観た「リズと青い鳥」にはドはまりしてとてつもない入れ込みようで観た本作でした。
全日譚となるTVアニメシリーズも未視聴で楽しめるかなと思いましたが、実際観てみたらなかなかに楽しめました。
新入部員として先輩達と部の過去に思いをはせる100分
これまでのエピソードを分かってないことで物語への没入に支障が出るかなと思ったんですが、久石ら1年生と同じ目線から部の先輩たちにどういう過去があって今に至っているのかを想像しながら人間関係を読み解いていく楽しみがありました。
というより部活ものって、ある程度現在進行形の話の中に先輩たちの過去を読み解けるようにして話を作らないと、新入生たちがドラマに混じっていけないと思うんですよね。
そういう意味では卒業と入学という絶対的な新陳代謝が生じる部活ものって前知識なしで途中参入しやすいジャンルなのかなと思いました。
「久美子」の主人公としての好感度の高さ
そうやってキャラクター達を読み解いていく中で気に入ったがいくつかあります。
第一に「リズと青い鳥」では「髪の毛の茶色いやつ」としてしか認識してなかった主人公・黄前久美子のキャラがすごく好きなキャラクターでした。
まず驚いた点。久美子には彼氏がいるんですね。彼氏がいるアニメーションのキャラクターを久しぶりに見たので新鮮さがありました。
あとキャラクター性から小柄だと思っていたら、女子部員の中では背丈も骨格も大きいほうで、アニメキャラクターの先入観で見ていると想像を裏切られる楽しみがありました。
久美子と、同じく「髪の黒い嫌なヤツ」としか認識のなかった高坂との互いに求めるレベルの高い友情も良かったです。
「高校から頑張れたもう一人の自分」久美子
さて、私が久美子のキャラクター性の中で一番「おっ」となって、最も好感度が高かった点は「中学では割となまけてた」という点でした。
スポ根ジャンルの登場人物たちが無限の情熱でもって努力を重ねる姿には、アツさを感じると同時に「自分はそこまでは頑張ってきてない」という引け目を感じて入り込みきれない時ってありませんか?
私はよくあって、「ああ、私はこのキャラクターに顔向けできるほど高校時代に頑張って生きてないな」って思っちゃうんですよね。
久美子はそういう心境でも入り込みやすいキャラクターで、(私がそうであり、私たちの結構な大部分がそうである)「中学でも高校でもなまけていた」現実の自分から分岐した「中学まではなまけていたけど高校からは頑張っている」ifの自分の姿として観られるところが、入り込みやすいさなのかなと思いました。
久美子が視聴者に近い視点を持っているのは、情熱はあるけど冷めた視点を持っている点にも表れてますね。
「そこまで好きじゃない」を掘り起こす残酷さ
物語全体としての印象は、久美子のキャラクターに表れているように、全体の物語に「頑張ってない側の人」の個々人の物語が組み込まれているのが恐ろしい話だと思いました。
劇中で様々なドラマが起こって、個々のキャラクターは必死に生きてるんですけど、その裏側ではキャラクター達も我々観客も「でもこの人のほうが実力があるし、この人のほうが実際努力してるよね」って冷静な目で見てる感触があるんですよね…
いやね、なんか分かるんですよその手触り。学生時代の部活って「頑張る」「頑張る」って言ってるけれども別にすべての情熱を部活に傾けてるわけじゃなくて、むしろさぼってる時間のほうが長かったり、でも後輩には先輩として立派なことを言うとしたりとか…そういう心境って部活あるあるなわけですよ!
この残酷さ。「才能がないこと」より「そんなに頑張ってない」ことを暴くほうがはるかに残酷ではないですか?学生時代の「みんな頑張ってる」なんてぬるい共感のおためごかしを許さないシビアな残酷さのある話だと思いました。
生まれ持った身体能力が大きなウェイトを占めるスポーツよりも、練習量がものをいう音楽のほうが練習量の差という残酷さを描くには適した題材とかもしれませんねぇ。
「ちょっとだけでも好き」を見つめる優しさ
ここからが私の言いたいことなんですけど…
じゃあ頑張り切れなかったけど、そこそこには頑張ったやつの頑張りには価値がないってんですか?!って話ですよ!
本作には明らかに限界まで頑張ってるキャラクターもいれば、そこまで頑張り切ってはないけどめちゃくちゃ頑張ってるふりしてるキャラクターもいるわけです。
前者はきっと高校以降もより高いレベルで音楽をやれるんでしょうし、後者はおそらくそうではないでしょう。
でも100%まで頑張り切らない青春にだって必死な悩みがあったり決断があったりするわけで、それらの集大成としてラストの演奏シーンではみんなが対等な立場で演奏を披露するわけじゃないですか。やっぱりそこには感動があるわけですよ。
ていうか笠木希美!お前だよ!映画公式サイトのキャラクター紹介にもなってないお前の姿に感動したんだよ!
「リズと青い鳥」にバチバチはまってた私からすれば、ひたむきになり切れなかった側であり、挫折を経験するキャラクターである笠木希美が前を向いて堂々と演奏する姿にはどうしても感動してしまうんです。
それってきっと希美に限らず他の頑張り切ってはないけれど、そこそこに頑張ってきたキャラクターたちの姿でもあると思います。
「響け!ユーフォニアム」は情熱量の差を冷酷に描きつつ、それでも個々人の生きざまを丁寧に見つめる眼差しもまたある、甘くはないけれど優しい話なのだなと思いました。
時間を設けて過去映画やTVシリーズもできれば観てみたいところ。